23  待ち行列モデル

23.1 学習目標

  • ケンドールの記号を理解する.
  • 利用率を理解し,計算できる.
  • 滞在時間,待ち時間,系内客数,待ち行列長などの評価指標を理解する.
  • リトルの法則を理解し,適用できる.
  • G/G/1,G/G/c 待ち行列の基本的な関係式を理解する.

23.2 待ち行列とは

客(customer)がシステムに到着(arrival)し,待ち行列(queue)に並び,サービスを受け,最後にシステムを退出(departure)する.典型的な待ち行列システムを 図 23.1 に示す.

図 23.1: 典型的な待ち行列システム

待ち行列システムは待ち行列とサーバから構成される.これ以降は,待ち行列システムを単にシステムと呼ぶことにする.

23.3 待ち行列モデル

一般に,待ち行列モデルは,次の5つの要素で特徴付けられる.

  1. 客の到着過程
  2. サービス時間分布
  3. サーバ数
  4. システム容量
  5. サービス規律

本章では,システム容量は無限大であり,サービス規律は先着順(first-come, first-served; FCFS)であると仮定する.

23.4 ケンドールの記号

待ち行列モデルは,ケンドールの記号(Kendall’s notation)を用いて,通常次の形式で表される.

A/B/X

ここで,A は到着間隔分布の種類,B はサービス時間分布の種類,X はサーバ数を表す.

A と B には 表 23.1 の記号が用いられる.

表 23.1: ケンドールの記号において A と B に用いられる記号
記号 意味
M 指数分布
D 決定論的(一定)
G 一般分布
E_k k 次アーラン分布
H_k k 次超指数分布

例えば,客の到着間隔が指数分布に従い,サービス時間が一定であり,サーバ数が1台である待ち行列モデルは,M/D/1 待ち行列と表される.この M/D/1 待ち行列モデルのシステム容量は無限大であり,サービス規律は FCFS であると仮定されている.

G/G/1 と G/G/c 待ち行列は,特定の分布を仮定しない待ち行列モデルであるため,得られた結果は多くの待ち行列モデルに適用できる.さらに,G/G/c 待ち行列で得られた結果は,c = 1 とすれば G/G/1 待ち行列にも適用できる.

23.5 利用率

G/G/c 待ち行列モデルを考える.本章で用いる記号を 表 23.2 にまとめる.

表 23.2: G/G/c 待ち行列モデルの記号
記号 意味
\lambda 平均到着率,単位時間あたりの到着客数の平均
L 系内客数
W 滞在時間
L_q 待ち行列長
W_q 待ち時間
S サービス時間
\mu 平均サービス率,1台のサーバが単位時間あたりに処理できる客数の平均
c サーバ数
\rho 利用率

時刻 t までの累積到着客数を A(t) とする.時間区間 [0,t] における単位時間あたりの到着客数の平均は \bar{A}(t) = \frac{A(t)}{t} で与えられる.以下の極限 \lambda = \lim_{t \to \infty} \bar{A}(t) が存在するとき,\lambda を平均到着率(average arrival rate)と呼ぶ.平均到着率 \lambda は,長期的に見たときの単位時間あたりの平均到着客数を表す.

サービス時間を表す確率変数を S とする.平均サービス時間は \mathbb{E}[S] で表される. 1台のサーバが単位時間あたりに処理できる平均客数は \mu = \frac{1}{\mathbb{E}[S]} で与えられる.\mu を平均サービス率(average service rate)と呼ぶ.

例 23.1 あるゼミでは,学生6人と教員1人が所属している.教員は,1人の学生に対して平均して10分間指導を行う.このとき,平均サービス率と平均サービス時間を求めよ.

平均サービス時間 \mathbb{E}[S] は10分である.平均サービス率 \mu は次のように計算される.

\mu = \frac{1}{\mathbb{E}[S]} = \frac{1}{10 \text{ 分}} = \frac{1}{10/60 \text{ 時間}} = 6 \text{ 人/時間} すなわち,教員は1時間あたり平均6人の学生に指導を行うことができる.

システムの利用率 \rho は,次の式で定義される.

\rho = \frac{\lambda}{c \mu}

ここで,c はサーバ数を表す.利用率 \rho は,到着率 \lambda がシステムの処理能力 c \mu に対してどの程度であるかを示す指標であり,システムの忙しさを表す.G/G/1 待ち行列の場合,c = 1 であり,利用率は \rho = \lambda / \mu となる.

\rho > 1 の場合,\lambda > c \mu となり,待ち行列が無限に増加する.\rho = 1 の場合,\lambda = c \mu となり,到着率とシステムのサービス能力が等しい.\rho = 1 の場合において,D/D/1 待ち行列のように,客の到着間隔とサービス時間がともに一定である場合を除き,待ち行列は無限に増加する.したがって,システムが安定して運用されるためには,\rho < 1 である必要がある.

\lambda と \mu が与えられたとき,\rho < 1 という条件を用いて,システムの安定に必要なサーバ数 c の最小値を求めることができる.すなわち,

\rho = \frac{\lambda}{c \mu} < 1

を満たす最小の整数 c を求めればよい.\lfloor x \rfloor を x 以下の最大の整数とすると,必要なサーバ数の最小値は c = \lfloor \lambda / \mu \rfloor + 1 で求められる.

例 23.2 あるコールセンターでは,オペレーター10人が勤務している.1件の電話対応に平均して10分かかる.1時間あたり平均30件の電話がかかってくるとする.

  1. オペレーター1人が1時間あたりに対応できる電話の平均件数を求めよ.
  2. このコールセンターの利用率を求めよ.
  3. 待ち行列が無限に増加しないために必要な最小のオペレーター数を求めよ.

平均サービス時間 \mathbb{E}[S] = 10 \text{ 分} = 1/6 \text{ 時間} である.平均サービス率 \mu は \mu = \frac{1}{\mathbb{E}[S]} = \frac{1}{1/6} = 6 \text{ 件/時間} となる.すなわち,オペレーター1人は1時間あたり平均6件の電話に対応できる.

平均到着率 \lambda は30件/時間,平均サービス率 \mu は6件/時間,サーバ数 c は10である.利用率 \rho は次のように計算される.

\rho = \frac{30}{10 \times 6} = \frac{30}{60} = 0.5

よって,このコールセンターの利用率は0.5である.

安定した運用のためには,\rho < 1 を満たす必要がある.すなわち,

c > \frac{\lambda}{\mu} = 5

したがって,オペレーターは最低6人必要である.

23.6 定常状態

システムの使用を開始してから十分な時間が経過しておらず,システムの状態(システム内の客数など)が初期状態の影響を受けている場合,システムは過渡状態(transient state)にあるという. 一方,十分な時間が経過すると,システムの状態は初期状態の影響を受けなくなる.このとき,システムは定常状態(steady state)にあるという.

定常状態は過渡状態よりも解析が容易であるため,本書で紹介する待ち行列理論では,主に定常状態におけるシステムの性能評価を扱う.以下では,定常状態における記号を紹介する.

システム内にいる客数のことを系内客数と呼ぶ. N(t) を時刻 t における系内客数とする.\mathbb{P}(N(t) = n) を時刻 t における系内客数が n である確率とする.L を定常状態における系内客数とすると,\rho < 1 のとき,n = 0, 1, 2, \ldots に対して,

\pi_n = \mathbb{P}(L = n) = \lim_{t \to \infty} \mathbb{P}(N(t) = n)

が存在し,\pi_n は系内客数 L が n である確率を表す.\pi_n は,長期的に見て系内客数が n である時間の割合と解釈することもできる.\pi_n は時刻 t に依存しない.

滞在時間は,客がシステムに到着してから,サービスを受けてシステムを退出するまでの時間である. k 番目の客の滞在時間を W^{(k)} とする.W を定常状態における滞在時間とすると, \rho < 1 のとき,

F_W(t) = \lim_{k \to \infty} \mathbb{P}(W^{(k)} \leq t)

が存在し,F_W(t) は滞在時間 W が t 以下である確率を表す.

23.7 リトルの法則

ここまで,定常状態における系内客数と滞在時間の分布を紹介した.待ち行列システムの性能を評価する際に特に重要な指標として,平均系内客数や平均滞在時間がある.

以下の極限が存在するならば,平均系内客数 \mathbb{E}[L] と平均滞在時間 \mathbb{E}[W] はそれぞれ次の式で定義される. \mathbb{E}[L] = \lim_{T \to \infty} \frac{1}{T} \int_0^T N(t) dt

\mathbb{E}[W] = \lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \sum_{k=1}^n W^{(k)}

すなわち,平均系内客数はシステム内の客数を長期間にわたって時間平均したものであり,平均滞在時間は多数の客の滞在時間を平均したものである.

リトルの法則(Little’s Law)は,待ち行列理論における基本的な関係式であり,平均系内客数 \mathbb{E}[L],平均滞在時間 \mathbb{E}[W],平均到着率 \lambda の関係を示すものである.リトルの法則は

\mathbb{E}[L] = \lambda \mathbb{E}[W]

と表される.すなわち,平均系内客数 \mathbb{E}[L] は,平均到着率 \lambda と平均滞在時間 \mathbb{E}[W] の積に等しい.

Little (1961年) と Stidham (1974年) により,リトルの法則の厳密な証明が与えられている.ここでは,例を用いて,リトルの法則を直感的に理解する.

例 23.3 (大学の在籍学生数) ある大学の経営システム系では,毎年80人の新入生が入学し,卒業までに4年間在籍する.このとき,経営システム系に在籍している学生の平均人数を求めよ.

平均到着率 \lambda は80人/年,平均滞在時間 \mathbb{E}[W] は4年である.リトルの法則により,平均系内客数 \mathbb{E}[L] は次のように求められる.

\mathbb{E}[L] = \lambda \mathbb{E}[W] = 80 \times 4 = 320 \text{ 人}

よって,経営システム系には平均して320人の学生が在籍している.

例 23.4 (銀行の平均在店客数) ある銀行では,1時間に平均20人の客が来店し,各客が銀行に滞在する平均時間は12分である.このとき,この銀行には平均何人の客がいるか.

平均到着率 \lambda は20人/時間,平均滞在時間 \mathbb{E}[W] = 12 \text{ 分} = 12/60 \text{ 時間} である.リトルの法則から,平均系内客数 \mathbb{E}[L] は

\mathbb{E}[L] = \lambda \mathbb{E}[W] = 20 \times \frac{12}{60} = 4 \text{ 人}

となる.すなわち,銀行内には平均して4人の客が滞在する.平均滞在時間 \mathbb{E}[W] や平均到着率 \lambda が増加すると,平均系内客数 \mathbb{E}[L] も増加することがわかる.

これまでは,システム全体に関するリトルの法則を紹介したが,図 23.1 の待ち行列の部分(内側の枠)を「システム」として考えた場合にも同様の関係が成り立つ.すなわち,リトルの法則を待ち行列にも適用できる.待ち行列に関するリトルの法則を説明するために,待ち時間と待ち行列長の記号を導入する.

待ち時間は,客がシステムに到着してからサービスを受け始めるまでの時間であり,滞在時間は待ち時間とサービス時間の和に等しい.待ち行列長は,システム内にいる客数のうち,サービスを受けていない客数を表す.

平均待ち行列長を \mathbb{E}[L_q],平均待ち時間を \mathbb{E}[W_q],平均到着率を \lambda とすると,

\mathbb{E}[L_q] = \lambda \mathbb{E}[W_q]

が成り立つ.

システム全体と待ち行列の対応を 表 23.3 にまとめる.

表 23.3: システム全体と待ち行列におけるリトルの法則の対応
システム全体 待ち行列
範囲 待ち行列とサーバ 待ち行列
客が入る時点 到着 到着
客が出る時点 退出 サービス開始
客数 系内客数 L 待ち行列長 L_q
時間 滞在時間 W 待ち時間 W_q
リトルの法則 \mathbb{E}[L] = \lambda \mathbb{E}[W] \mathbb{E}[L_q] = \lambda \mathbb{E}[W_q]

23.8 G/G/1,G/G/c

G/G/1 と G/G/c 待ち行列において,\mathbb{E}[L],\mathbb{E}[W],\mathbb{E}[L_q],\mathbb{E}[W_q] の間に成り立つ関係式を紹介する.

客がシステムに到着してから退出するまでの平均滞在時間 \mathbb{E}[W] は,平均待ち時間 \mathbb{E}[W_q] と平均サービス時間 \mathbb{E}[S] の和で表される.すなわち,

\mathbb{E}[W] = \mathbb{E}[W_q] + \mathbb{E}[S] = \mathbb{E}[W_q] + \frac{1}{\mu}

である.リトルの法則により,

\mathbb{E}[L] = \lambda \mathbb{E}[W] = \lambda \left( \mathbb{E}[W_q] + \frac{1}{\mu} \right) =\lambda \mathbb{E}[W_q] + \frac{\lambda}{\mu} = \mathbb{E}[L_q] + \frac{\lambda}{\mu}

が成り立つ.\mathbb{E}[L] = \mathbb{E}[L_q] + \lambda / \mu であることから,\lambda / \mu はサービスを受けている客数の平均を表していることがわかる.サービス中の客1人につき1台のサーバが稼働しているので,\lambda / \mu は稼働中のサーバ数の平均とも解釈できる.

\mathbb{E}[L],\mathbb{E}[W],\mathbb{E}[L_q],\mathbb{E}[W_q] は待ち行列における基本的な評価指標である.\lambda と \mu が与えられたとき,4つの指標のうち1つがわかれば,残りの3つを計算できる.

23.9 まとめ

  • 待ち行列モデルはケンドールの記号 A/B/X で表す.A は到着間隔分布,B はサービス時間分布,X はサーバ数を表し,M は指数分布,D は決定論的,G は一般分布を意味する.
  • 利用率は \rho = \lambda / (c\mu) で定義される.システムが安定して運用されるためには \rho < 1 である必要がある.
  • 定常状態では,系内客数の分布 \pi_n と滞在時間の分布は時刻 t に依存しない.
  • リトルの法則 \mathbb{E}[L] = \lambda \mathbb{E}[W] が成り立つ.待ち行列を「システム」とみなせば,\mathbb{E}[L_q] = \lambda \mathbb{E}[W_q] も成り立つ.
  • G/G/1,G/G/c 待ち行列では \mathbb{E}[W] = \mathbb{E}[W_q] + \mathbb{E}[S],\mathbb{E}[L] = \mathbb{E}[L_q] + \lambda/\mu が成り立つ.\lambda と \mu が与えられたとき,4つの評価指標のうち1つがわかれば,残りの3つを計算できる.

23.10 練習問題

練習 23.1 (アイスクリーム屋さん) あるアイスクリーム屋さんでは,1名の店員が客の注文を受け付け,アイスクリームを提供している.1時間あたり平均30人の客が来店し,店員は1時間あたり平均60人の客に対応できる.客の平均待ち時間は5分であるとする.

  1. このアイスクリーム屋さんの利用率を求めよ.
  2. 客の平均滞在時間,平均系内客数,平均待ち行列長を求めよ.

練習 23.2 (保安検査場のレーン数) ある空港の保安検査場には,旅客が1時間あたり平均90人到着し,到着間隔は指数分布に従う.各検査レーンでは旅客を1人ずつ検査し,1人あたりの検査時間は一定で2分である.旅客は1列に並び,空いたレーンで先着順に検査を受ける.

  1. レーン数を c として,この保安検査場の待ち行列モデルをケンドールの記号で表せ.
  2. 待ち行列が無限に増加しないために必要な最小のレーン数を求めよ.また,レーン数が3では不十分である理由を説明せよ.
  3. レーン数を4とするとき,利用率を求めよ.
  4. レーン数を4として運用したところ,平均待ち行列長は0.8人であった.平均待ち時間,平均滞在時間,平均系内客数を求めよ.また,平均して何レーンが検査中であるかを求めよ.